プラス通信 2015.12月号
抗生剤(抗生物質)の影響 その1
抗生剤は細菌を殺す作用があります。
抗生剤の作用によって腸内細菌を始めとして人の体に常在菌として存在している細菌が死にますが、死ぬのは体に入ってきた抗生剤に感受性を持っている細菌は死に、感受性がなかった細菌は生き残ります。
細菌の世界は「陣取り合戦」のルールで生存競争が繰り広げられています。
つまり、ある種の細菌が生存している所には他の種の細菌は増殖できないというルールです。人の常在菌の全貌は解明されていませんが一人一人常在菌の種類は違い、多種類の常在菌がひしめき合っています。
抗生剤によって感受性を持っている菌が死ぬと他の細菌が増殖できるスペースができます。つまり、今まである程度のスペースしか占めることが出来なかった細菌(生き残った細菌)がそのスペースを埋めるように増殖していくのです。
常在菌が病原性を持たないのは、多様な細菌が互いに牽制し合うことで特定の細菌が多く増えないためです。多種類の常在菌が存在していることで、病原性を持った細菌が入ってきても増殖できないため、簡単に細菌感染症を発症しにくくなります。抗生剤は腸内細菌叢を始めとした人の常在菌バランスを単純化させていく方向に作用し、そのために逆に細菌感染症を発症しやすくなるという逆効果の側面があるのです。
細菌と生理機能の関係
人の様々な生理機能は「多数の細菌が存在している」と言う事を前提としています。
特に、免疫機能は常在菌の存在によってバランスが保たれていることが最近の研究によってあきらかにされてきています。アレルギーを始め、自己免疫疾患が近代社会になってくるのに従い増加しているのですが、原因の1つとして抗生剤による常在菌の喪失が影響している可能性が指摘されてきています。
アレルギー程度であればまだマシなのですが、自己免疫疾患の多くも常在菌の喪失による免疫バランスの暴走が関係していることが指摘されています。
※1型糖尿病(インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが全く分泌されなくなる糖尿病で、インスリン注射が必要になる病気。子供が急に発症することが多いことから「小児糖尿病」とも言われています。)も常在菌の喪失による免疫機能の暴走が関係していることが報告されています。
風邪などのウイルス感染の後に1型糖尿病を発症するケースが多いことから、何らかのウイルスが発症に関係しているのではないかと考えられていましたが、最近の研究で治療に使用された抗生剤の影響であることが解明されてきています。
欧米諸国では以前から日本と比べると抗生剤の使用は慎重だったのですが、この報告を受けて抗生剤の使用は非常に慎重になっています。
しかし、日本では「乱用」と言われても仕方のない状況が続いています。
※私は自己免疫疾患の発生には、抗生剤による常在菌バランスの喪失と糖質の過剰摂取が免疫系に影響を及ぼす両面からの影響が関係しているのではないかと考えています。
抗生剤で死んだ腸内細菌は回復するの?
以前は、抗生剤が投与されてもしばらくすれば常在菌は自然と増殖してくると考えられていたのですが、近年の研究によってそんなに簡単に回復してこないことが明らかになってきています。
抗生剤の影響は乳幼児の頃ほど大きく、1クールでは多くの子供の腸内細菌は回復してきても、2クールになってくると回復に数ヶ月から数年かかるケースが発生してきます。
投与回数が増加するほどに回復に年数がかかるようになってきて、中には生涯に渡って回復しないのではと考えられるケースも出てきていたのです。大人でも、抗生剤の服用回数が増加するほどに腸内細菌の回復が相乗的に遅れていく傾向が顕著になってくる事が判明しています。
ある回数までは回復が遅れる状態なのが、ある回数を超えると回復が見込まれない状態になると指摘されています。抗生剤の影響は、どの程度続くのかを研究した研究報告によると、ダメージは蓄積性があり数年経過しても回復しない可能性があることが報告されています。
そして、抗生剤の影響は数ヶ月、あるいは数年経過して表れてくる事があるのです。この様に、抗生剤は気軽に服用してはいけない薬なのですが、医療現場ではそこまで考慮されていないというのが実際ですので、自己防衛する必要があると考えられます。
風邪などの急性上気道感染症の95%以上はウイルス感染ですので、殆どのケースで抗生剤は必要がないのです。
常在菌と赤ちゃんの成長
お腹の中の胎児には、まだ細菌がいません(いないと言われていますが、本当かは不明です。ただ、いてもかなり少ないと考えられます)。
妊娠後期になると、膣内分泌物にグリコーゲン(デンプンのような糖質)が多く含まれるようになります。この、グリコーゲンは乳酸を生産する特定の細菌(乳酸菌)のエサになります。この乳酸菌が増殖して、菌が生産する乳酸が増えると害を及ぼす病原菌が産道を上ってくることが出来なくなります。
そして、産道の粘液には細菌(乳酸菌が多い)がたっぷりと存在していますので、胎児が参道を通るときに、細菌を含んだ粘液スープを全身に浴びて、赤ん坊の皮膚常在菌、口から取り込み消化管内細菌のベースとなっていきます。
赤ん坊の皮膚についた乳酸菌は、病原菌から赤ん坊の肌を守る働きもします。
母乳には200種類以上に及ぶオリゴ糖が含まれています。
しかし、乳児はこのオリゴ糖を消化することが出来ません。母乳に含まれているオリゴ糖は消化管内にいる乳酸菌などの腸内細菌のエサになるのです。乳管の奥深くには乳酸菌のコロニーが多数形成されていて、以前は、この乳酸菌がどこから来ているのか判らなかったのですが、細菌のDNA解析技術が実用化され、マウスを使った研究によって、乳管の乳酸菌は母胎の腸内細菌由来であることが判明したのです。
そして、腸内細菌を乳管まで運んでいたのは、なんと体内の免疫細胞が運んでいたと言うことも解明されてきたのです。
この様に乳児は生まれ出てくるときに母胎由来の常在菌をたっぷりと浴び、生まれ出てからも、母乳と一緒に乳酸菌を取り込んでいき、更に腸内細菌を育てるための栄養を母乳から摂取していくのです。この事実は、人間の様々な機能の成長成熟に細菌が非常に重要な要素であることを示唆しています。
出産前に母親が不用意に抗生剤を服用すると、その影響は子供にとって取り返しがつかないほど大きなダメージとなる可能性があるのです。
※帝王切開で出産した赤ちゃんは母親由来の細菌スープを浴びることなく生まれてきます。それは、赤ちゃんの成長に何らかの影響を及ぼすことが考えられます。イスラエルの病院では、そのような赤ちゃんに母親の膣内分泌液を採取して、赤ちゃんの口内に塗るという事で問題解決を図っています。
※証陽散はEC-12という殺菌乳酸菌がメインです。ヨーグルトなどを食べても腸には乳細菌は殆ど届きません。殺菌乳酸菌は腸内細菌の効率よいエサになるのです。証陽散は腸内細菌の増殖を促し、バランス回復を効果的に促進させていくのです。
※抗生剤の影響は思われているよりも深刻だと考えられますので「念のために」等という軽い気持ちで服用するべきではないと言うことです。
ただし、深刻な細菌感染症の場合は当然、抗生剤が必要です。
プラス薬局では、抗生剤が必要な状態であるかどうかを含めたアドバイスもさせていただいています。中耳炎などで抗生剤がよく使われますが、欧米の研究では殆どの中耳炎は抗生剤を使用しなくても自然に治癒することが報告されています。
つまり、中耳炎の多くは深刻な細菌感染ではないと言う事を意味しています。