プラス通信 2020.10月号
帯状疱疹が若者に急増中!
最新の調査で、20代から40代の若年層で帯状疱疹患者が顕著に上昇していると報告されています。帯状疱疹は、水ぼうそうウイルスの再燃(再発)で起きる皮膚病です。水ぼうそうウイルスに最初にかかったときは水ぼうそうになります。水ぼうそうが治ってもウイルスは死ぬことなく、神経節の細胞に入り込み休眠状態になって潜伏します。
加齢、疲労、ストレスなどの影響で免疫が低下して、ウイルスが再活性化すると帯状疱疹を引き起こします。若年層で帯状疱疹の発症率が顕著に上昇している理由として、2014年10月、生後12カ月から36カ月までの小児を対象に水痘ワクチンが定期接種化されたことが影響しています。ワクチンによって小児の水ぼうそう患者が減ることで、周囲の大人が水ぼうそうウイルスに曝露する機会が減少し、その結果、水ぼうそうウイルスに対する免疫が廃れていき、帯状疱疹の発症者が増加してきているのです。
小児への水痘ワクチンが定期接種化されたころから、成人の帯状疱疹患者が増加する可能性が指摘されていたのですが、実際、最新の疫学調査の結果からもその傾向は明らかとなりました。
帯状疱疹の年齢別年間発症率
(水痘ワクチン定期接種化前後の比較)
帯状疱疹の年間発症率の年次推移
(1997年を1とした場合)
2011年4月に日本小児科学会によって水痘ワクチンの接種勧奨がなされ、2014年10月には水痘ワクチンが定期接種化された。
帯状疱疹の症状
基本、体の片側に、神経に沿って表れます。発症の初期には皮膚の表面にピリピリ・チクチクとした痛みを自覚することがあります。
水疱が表れない最初の段階では「何かにかぶれた」と思われる事もある様です。
そのうち、神経に沿った範囲の皮膚に、プツプツとした赤い水疱が多発します。
水疱が現れる可能性のある部位は、神経が通る頭部、顔面、体幹、四肢など様々です。発疹自体は水ぼうそうと同じように、水疱が破れてかさぶたになり、やがて治っていきます。ただ、抗ウイルス薬による治療後にも、皮膚に跡が残ったり、痛みが長く続くことがあります。また、顔面に発症すると、顔面神経マヒ、角膜炎、聴力障害などの合併症を起こすこともあります。
目の近くに発症した場合、角膜に広がることがあり、角膜に傷や水疱が発生すると失明に至ることもあります。顔面の三叉神経部位に発症した場合、ウイルスが髄膜に到達して髄膜脳炎を起こす場合がありますので要注意です。
体の片側に痛みや赤い水疱が現れる。写真はイメージ=(c) t0pkul3-123RF
やっかいな帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹後神経痛は、水疱がなくなった後も痛みが長く続きQOL(生活の質)を大きく低下させるやっかいな状態です。帯状疱疹が発症してから3ヶ月以上経過しても痛みが続く場合に診断されます。帯状疱疹は、水ぼうそうウイルスが知覚神経で増殖して起きます。炎症が起きることで水疱や痛みが表れます。炎症によって知覚神経が変性し、炎症が強いと、知覚神経を包んでいる繊維細胞組織が破壊され知覚神経がむき出しになってしまいます。
知覚神経がむき出しになると痛みがいつまでも続く様になり、帯状疱疹後神経痛となります。
また、痛みの記憶による心因性の痛みも関わるとも考えられています。
帯状疱疹後神経痛になるのを防ぐためには、炎症が酷くならないように初期段階からしっかりと治療をすることがとても重要です。
帯状疱疹の治療
帯状疱疹は早い段階でバラシクロビルなどの抗ウイルス剤による治療が基本です。ただ、水疱が出来てから「帯状疱疹」と判る事が殆どで、バラシクロビルなどは、水ぼうそうウイルスがそれ以上増殖できない様にしますが、ウイルスを殺す働きはありません。水疱が発生してしまっている状態は、既に多くのウイルスが増殖している状態で、増殖したウイルスを攻撃する免役反応による炎症が続くため、抗ウイルス剤を服用しても痛みは数日間続きます。その間に知覚神経や知覚神経を包んでいる鞘組織が障害されると、帯状疱疹後神経痛になるリスクが高まりますので、漢方治療によって知覚神経と神経を包んでいる組織が少しでも障害されないようにする事が最善の方法になります。
プラス薬局での漢方治療
痛みを鎮める目的で、ロキソニンなどの消炎鎮痛剤が処方されることか多いですが、消炎鎮痛剤はウイルスの活性を高める働きがあるため、服用によって治癒が遅れる場合があります。
プラス薬局の漢方治療は、免疫機能を高めウイルス活性を抑制し、現実の炎症を効果的に鎮める治療を行っていきます。帯状疱疹の炎症は、ウイルスを攻撃する「免役反応による炎症」、つまり活性酸素による炎症ですので、活性酸素を強力に分解除去する「プライケアEiz(イーアイズ)」を中心に、免疫状態に合わせて処方を組み立てます。抗ウイルス剤とプライケアEizを中心とした漢方処方を一緒に服用します。
通常、10日間の治療で帯状疱疹後神経痛になるリスクを大きく下げる事が出来ます。
初期段階でしっかりと治療する事がとても重要です。
帯状疱疹と診断されたらすぐにご連絡下さい。
帯状疱疹を予防する
・ワクチン
帯状疱疹予防ワクチンがあります。ただし、対象は50才以上になります。また、帯状疱疹予防ワクチンは保険対象外で自費になります(自治体によっては補助があります)
ワクチンの種類は2種類あり、1つは、「弱毒生ワクチン」という水ぼうそうウイルスの毒性を弱めたウイルス株を使ったワクチンです。このワクチンの予防効果は約50%程度で、接種は1回です。費用は7,000~10,000円程度です。ただ、生のウイルスを含むため、妊婦や免疫が低下した人は接種できません。接種後の副反応は、主に注射部位紅斑114件(44.0%)で、疼痛は14.7%、全身性の症状としては倦怠感4件(1.5%)、発疹4件(1.5%)と軽微な症状に留まっています。
もう1つは、遺伝子組換え技術を使って作られたサブユニットワクチン(商品名:シングリックス)が、2020.1月に登場しました。シングリックスはウイルスを含まないため、免疫が低下したひとにも使えます。
※妊娠中の方は、医療機関に問い合わせて確認して下さい。
シングリックスは、50歳以上の成人を対象に行った臨床試験で、ワクチン接種群の帯状疱疹発症が97.2%の低下。また、50歳以上が対象の臨床試験と、70歳以上が対象の臨床試験の参加者を合わせて分析したところ、70歳以上の被験者について発症予防効果は91.3%、帯状疱疹後神経痛に対する有効率は88.8%と報告されています。
ただ、シングリックスは、副反応が比較的高頻度に認められます。国際共同第3相臨床試験では、何らかの局所の副反応は80.8%で認められ、主なものは疼痛(78.0%)、発赤(38.1%)、腫脹(25.9%)など。特に全身性の副反応が64.8%で認められ、筋肉痛(40.0%)、疲労(38.9%)、頭痛(32.6%)などインフルエンザ様症状が報告されています。また、シングリックスは2回接種で、2回分の費用が約40,000円と生ワクチンの4倍ほどになります。
食事で予防する
水ぼうそうが治った後、水ぼうそうウイルスは、神経節細胞で休眠状態になります。休眠状態になるのは、免疫細胞のT細胞(リンパ球の1種)の力でウイルスが抑制されて休眠状態になります。帯状疱疹は、T細胞の力が弱まり、水ぼうそうウイルスが休眠から目覚めて解き放たれる事でおきると考えられます。
T細胞の力が弱まる大きな要因として、高血糖状態が指摘されています。つまり、糖質を多く摂る食生活は、免疫力を抑制状態にして、帯状疱疹の発症リスクだけでなく、帯状疱疹後神経痛のリスクも高めると考えられます。
清水泰行. 「糖質過剰」症候群~あらゆる病に共通する原因~ (光文社新書)に、糖尿病患者38万401人と非糖尿病者152万1604人を対象とした比較研究で、糖尿病患者の帯状疱疹リスクが3倍以上であったことが報告されています。糖尿病の人は非糖尿病者と比べると、同じ量の糖質摂取で大きく血糖値が上昇しますので、糖尿病患者の帯状疱疹リスクが高いことは、高血糖はT細胞を抑制する事を裏付けています。新型コロナウイルス感染で、糖尿病患者は重症化リスクが高いことも同じ理由と考えられます。
高血糖とガンと帯状疱疹の関係
2018年 のノーベル 医学・生理学賞を受賞した本庶佑・京都大学特別教授が、T細胞の表面に「PD-1」というタンパク質がある事を発見しました。PD-1はT細胞の働きを抑制、または停止させるスイッチの働きをするタンパク質で、PD-1は、PD-L1というタンパク質と結合する事で、T細胞が活動を停止して免疫機能が停止する事を解明しました。抗ガン剤治療で治りにくいガン細胞の表面にはPD-L1が多く存在し、T細胞の攻撃をかわしている事を解明し、PD-1が機能しなくなる免疫チェックポイント阻害薬(オブジーボ)という、従来とは全く働き方が違う抗ガン剤を開発したことでノーベル賞を受賞したのです。
活動停止のスイッチを入れるPD-L1はガン細胞以外にも、他の多くの免疫細胞の表面にも存在していて、高血糖状態ではPD-L1が増加する事が判ってきています。
2013年の台湾の研究で、台湾の50才以上の帯状疱疹の患者3万9743人と帯状疱疹になっていない1万6229人を比較した研究で、帯状疱疹と診断された後1年以内にガンに罹患するリスクが58%増加したことが報告されています。
※清水泰行. 「糖質過剰」症候群~あらゆる病に共通する原因~ (光文社新書)
つまり、帯状疱疹とガンの背景には、高血糖によるT細胞の免疫機能の低下が関係していると考えられるのです。